REAL 〜Night Breeze〜



気が付くと、辺りはもう夜の闇に包まれていた
曇っていた空は、この都市の真上だけが晴れていて
その大きな雲の穴の向こうには星空が見える
なんて綺麗な夜空だろう…
それは、今までに見たことが無いほどの美しい空だった



しばらく見上げていると、雲の無い空から雨が降り出した
それと同時に、全身に射すような痛みを感じる
雨に当たった部分が不快な痛みを訴える
逃げるように、近くにあった瓦礫の陰に入った
その瓦礫はすでに建物の形をしていない
しかし天井と壁は辛うじて残っている
“部屋”と呼ぶことはできそうだ
よく見ると、その“部屋”には見覚えがあるような気がする
しかし思い出せはしない
部屋そのものもほとんど原型を留めていないのだ
とにかくそこで雨宿りをする



数時間が過ぎた
妙に懐かしくも崩壊した部屋の中で
晴れた空から降る雨が止むのを待ち続ける
段々と時間の観念が消えていく
本当は数時間も経っていないのかもしれない
もしくは、もう数日が過ぎたのかもしれない
すべてが曖昧になっていく

「おい、あんた」

一瞬、またあの声が聞こえたかと思った
だが振り返ると、それは違うということが分かる
そこには、薄汚れた布切れに身を包んだ男がいた
背格好からするとまだ若い男かもしれない
だが、その雰囲気には驚くほどの老齢が刻まれているようだった

「いつからここにいる?」

それはこっちの台詞だ

「お互いに分からんようでは話にならんな」

そう言って、男は黙り込む
再び訪れる沈黙
しばらくして、

「待っていても、星の涙が止むことはないよ」

何かを思い出したかのように、男は言う
降り止まない雨のことを言っているらしい

「知らないのか、星の涙を」

首を横に振る

「星の涙は、徐々に“時”を破壊していく」

時を?

「ああ、そして全ての時が壊れた後は、何も残らない
 何かやり残した事があるのなら、今すぐにでもここを出発した方がいい」

あんたはいいのか?
何かやり残した事は無いのか?

「それを今考えていたところさ」

フードの内側から覗く男の目が、一瞬輝いた
一見世捨て人のような格好をしたその男の目は、希望を捨ててはいない
何か、あるんだな?

「そうかもしれないな
 本当は、考える暇があるのならここでじっとしているべきではない
 だが、どうしてもやるべき事が見つからないのだよ」

俺だってそうだ
この雨が時を壊すというのなら、考える時間だって少ないのに…
その時、

『好きにするがいいさ』

あの声が聞こえた
いや、幻聴かもしれない
それでも、その声は何かを思い出させてくれた
…行こう

「そうか、行くのか」

男も立ち上がる
それ以上の言葉は必要無かった
小さな部屋を出て外を見渡すと、世界は限りなく広がっていた







『今は、まだ何も終わってはいない…』
限られた声で、そう呟いた。




>back

2004.12 All Created by NATSUKI/Thanks to my dear friends