Ch.1


息苦しい暗闇からようやく開放されて
見ると、辺り一面に建物の残骸が広がっていた
ここは現実か… それとも夢の中なのか…
一目見ただけでは解らない
右手を上げて手のひらを見る
それから、その手を握り締めて感覚を確かめる
そんなことをしても、夢か現実かの判断はつかないが
雲の切れ目から射しこむ光が廃墟を照らす
見慣れた光の色ではない、まるで長い年月を経て
劣化してしまったかのような、彩度の落ちた光――夢のようだ
目をこすってみて、もう一度目を開いてみる
しかし、やはり現実味の無い光に照らされた廃墟があるだけ
人の気配も無い
時が止まってしまったのだろうか…

「夢は終わったのさ」

あの声が聞こえた
正に“どこからともなく”…その姿は見えない
いや、気配はすぐ近くに感じる
正確には近くて遠いような、説明のつかない感覚だが

「ここはもう現実さ…いや、違うな」

その声はしばらく考えていた

「もはや、夢とか現実とか…そんなものは関係なくなったんだ」

なら、もうどちらにも戻れないのか…?
“楽園”はどうなったんだ

「“楽園”は夢の中に置き去りにされた…
 完全に孤立して、隔離された状態さ」

どうしたらもう一度あそこへいける?
自力で探すしかないのか?

「違うね」

声は静かに言った
そして考える時間をくれた
分からない…何が言いたいんだ?

「“楽園”はもうどこにも無いと言っていい
 どこにも無い場所に行こうと思って行けるわけがない
 もしもう一度行くことができたら…それはむしろ、不吉なことだよ」

誰の意思だ?

「直接の原因になったのは一人の人間
 でももう関係無い、誰の意思でもない
 もしもっと大きな意思があったとしても、考えてはいけないのかもね」

何もかもが“もう”だな

「そうさ…“もう”すべてが今までとは違う
 終わったんだ…いや、始まる為に終わったんだ
 今度は終わりなんて無いかもしれない」

じゃあ…

「ああ、好きにするといい
 決めることができるのは、君の意思だけだから