ノング星辰術法結社北方支部 報告書 第１５号

　目的地点への道中、イオネの丘、及び周辺の集落へ立ち寄る。一週間から三ヶ月を目処に滞在し、この地域特有の季節風から星辰流を読み取り、目的地点への道程探査を試みる。
　集落の近くには地面に大きな亀裂が走っている場所があり、深い谷になっている。現地の言葉で“深い傷”を意味する名前で呼ばれているその亀裂は、地平線の果てまで、まるで地図の上でひと思いに線を引いたかのように続いている。谷底には濃い星辰力流が溜まり、あたかも川のようにゆっくりと流れ続けているのを感じる。これの影響を受け、正しい星辰力の流れをつかむまでに、通常より多くの時間を要するおそれがある。
　もしくは、いっそ気流を読むのはやめて、ただ、この亀裂をどこまでも辿っていった先に、目的の場所があるのだろうか。あまりにも見慣れず、荘厳ささえ感じさせる大地の“深い傷”。その景色を眺めていると、つい冒険譚じみた夢想に耽ってしまいそうになる（わたしたちがかつて辿ったあの旅路も、まるで伝説上の冒険譚のようなものだったかもしれない。あれはまるで空想物語のような、現実離れした日々だった。ああ、いけない。私情はこのくらいにしておかなければ）
　とにかく、しばらくは滞在するつもりである。その間、可能であればこの地方の術法結社（もし存在するならば、だが）と連絡をとる手段がないかどうか、情報収集も並行して行う予定。


報告者　クリスティヌ・レーシア

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