「陽光」


遠い道を歩いて
暗い部屋に鍵をかけて よりそって
静かに
体温にとけこんだ夏の陽射し
思い出して
もうすぐだから待っていて
行けもしないのに

わけもわからず隣り合って歩いていた
人らしく生きられなかったおかげで、まだその気持ちを忘れずにいる
誰もが

「この心に色は無くとも」


やさしさとか母性とか、
力強さ、善と偽善も
尊ばれたあげくに避けられ追いやられて、
その度ひとことひとことに振り回されている。

何かを持ってなきゃ生きられないわけじゃない。
気持ちなんて微塵も持っていなくても
だからって心無いわけでもなく。

干からびた皮を脱ぎ捨てるか
ぶら下げたままでもいいし、
とにかくからからに渇いた無色の皮膚を
自分自身といとおしんでいつも通り
知らないふりをして生きるしかない。

何もなくても息はできる。
魅力はなくても体はある。
主張はなくても声はある。
心はなくても皮膚はある。

「鼓動」


知らない気持ちが熱を持ってうずいている

二拍ずつの鼓動
抱えたまま夕闇の駆け足

この気持ちに行き場がないわけじゃなくて
どうしようか迷っているだけ

あなたになら伝わるかもしれないし
あなたになら聞かせてあげられる

誰もいない夜空に投げ捨てた気持ちは
どこへも行けないって知っている

痛みに似た鼓動
影になる景色
待っているのは諦めと
過去になる嘆き

「落ちる体」


誰かがすごく苦しんで吐き出した言葉が
ありふれているからって打ち捨てられるのはどうして

行き場のなくなった気持ちは剣のように地面に突き刺さって
立ち並ぶ無数のそれは日々の光に照らされている
剥き出しの刃がつけた傷口は深くて
もうこの道は歩きたくない

慰めも効かない
雨は静かに地面をえぐる

受け止めてもらえなかった鳥が落ちる
私はそれにぶつからないようにただ避けて歩く

「いつかこの先に」


私の欲しいものは、
どこか他の誰かの目の前に転がっている
私の欲しいものが目の前に転がっているのに、
それを見ないふりして蹴飛ばす誰かがいる

土足で胸の真ん中を蹴られる痛み

知らないものの名前をひとつずつ数えたい
そうして、本当に欲しいもののことを忘れていって
胸の奥にあるものに気づかないふりをしたい

叶うことのない優しさに
気がつかないふりをして

目の前のことだけを見ていたい

毎日が楽しい!
本当は私は幸せになれる
足が折れるまで走り続けたい
死ぬまで手の届くものだけを追い続けていたい
死にたい
生き続けていればいつかは
いつか いつかは

「重たい夜空にできる限りの速さで」


あなたがくれるものがすべてで、
生きる力だった

裸足の足の裏が地面を叩く
鳴らない足音が心に響く

星明かりは騒々しく
夜空にがなる

走り出していける
あなたの手を離して

もう何もいらないんだ

明日の空が見える
いままでありがとう

「雑音」


日が沈みかけてる

外は薄暗い
電気スタンドがまぶしい
カレンダーがもう10月になってる


のどが渇いた

ブラインドの隙間からのぞく空
とても広い
誰かが走ってる

冷蔵庫がうなる音
誰もいないから
話すこともない

誰かが歩いてる
もうすぐ日が沈む

「明け方の空」


目をつむると見える風景の中に
私が立っている
明け方の空は見慣れない色

どうしてその道を選んだのか
知りたい

私にも選び方を教えてほしい

明け方の空に知らない誰かがひとり
きっと通りなれた道を歩いてる
迷うことのない道をひとり

私には聞きなれない鳥のさえずり
見なれない空の色
感じなれない肌寒さ

誰かが歌ってる

つき通るような朝の静けさ
目に見える景色の広さに私は迷っている

「秋が来る前に」


知らない言葉が紙に書かれているのを見つける
いつか自分で書いた言葉だ
小さな姉妹が家を出て坂をかけあがる
古びた住宅団地のブランコに乗る
ふたりの笑い声が響くころ
もう空は暗くなりかけている
私はどこへも行けずに通りすぎて
海の見える公園から
金網越しにいつかは沈む太陽を見ている
まだ夜には遠いけど
帰るには遅すぎる
誰かが泣いている
誰かが歌っている
誰かが泣いている
誰かが歌っている





(終)