あの時の僕からいまの僕へ

あまりにも多くの色のこと
あまりにも多くの歌のこと
あまりにも多くの人のこと
あまりにも多くの過去のこと
そのすべてに 触れることができるということ





ノイズ

なんでもない
何も起こりそうにない平日の午後
耳に聞こえるのはノイズ

慣れすぎた帰り道
ただ前だけしか見ないし鞄は重い
何万キロも離れた空
強い言葉は静かに震えている

誰かが言葉を交わす
作り物

強く手を握って

そして握り返す
ほとばしるような透明な炎

もっと家が近ければいいのに
空き瓶が光を反射する





水曜日の午後

物事の複雑さが空に満ち、
光と雲になる
もはや悲しいとか寂しいとか、
ありきたりな言葉で飾られていてもいい
いつか壁に言葉を刻んだアパート
そこに流れる歌がある
旋律をなぞるように心が動く
だからそれは私の意思ではないのだ
午後もまた雨は降るのに
泣けない意味がわからない





三時間目の放課後

誰もいない田んぼ道
どこか遠くからしか聞こえない話し声
いつもより広い空の下で
いつもよりは広くなった自分の心がさみしさを少しごまかしている

ためらいがちに口を抜ける鼻歌
いま空気が震えた

自分がもう少し弱ければよかった
そうすればもっとこの歌にすがってしまえた
これ以上戦わなくても良かった
ほんの少し強かったばかりに
だから死ねなかった

一歩一歩にこんなに実感がこもるなんて





傷物の心を

それが何色かと聞かれても
今のわたしには答えられない

どうしてここにあるのかもわからない
生きた静物のよう
時間と共に移り変わって
その度にまばたきをして本当の姿を見ようとする

時計を失くしたんだ
じゃあ昔を思い出せばいい?
過ぎ去った事実だけが心を彫刻していた
嬉しい思い出も悲しかった日々も
何もかもが決して消えない傷と同じ





絵画

腐った土のような囁きの上
泥に変わる口笛と悪魔

トマトを口に含んで
その真っ赤な液体が滴るのを見るように
朝を見つける

遠ざかる羊を見送る飼い主が笑っている
私はそれを遠くから眺める
起き上がる気力もなく
真っ昼間から雑言を吐いて相槌も打てず

道行く人が挨拶を交わす
さざ波に似た息を吐く
魂に似た鳥を生む
子馬に乗って海を見る





白でも黒でもないのに

教えて シン・ホワイト・デューク
私はいまどっちを目指すべきなのか

私は下手なパントマイムで星をつかんだ冒険者

いつの間にか体中真っ黒に塗りたくって
偽者のままだけど自慢したくなる 綺麗でしょうなんて

まっくろな醜い姿のまま
白いドレスを着て踊る
そんなんで誰を騙せるのか知らないけれど
その一瞬だけの悦びがまるで麻薬のよう





血の味に甘えていた

見て 血が出てる
別に痛くはないけど
擦りむいたようなもの

唇はがさがさ
切り傷だらけで
血の味

口の中に広がれば
これでまたひとつ
忘れずに済むね

締めつけられて
切りつけられて
何もわからずに震えるような痛みだった

傷跡が消えても
そのナイフの形を忘れても
痛かったことは忘れない。
その時にすごく、悔しかったことも

だから
唇に滲む血の味がまるでやさしく
憎しみを許してくれるように
今は感じる





星に願いを

夜が来たらカーテンを開ける
深く重い暗闇にも輝くのは
決して届かない夜を走る希望みたいなもの
それでもいい

寒空に絶叫すると同様の強がりを
抱え込んだ僕





裂けた布

晴れた空
どうか歌声が涸れませんように

やさしさが大地を越えて届いてゆく
安らぎが空よりも高く広がる

ここに戦いがあるのなら 私はそれをにらみつける
鋭くナイフのように尖らせた線で
銀色に研ぎ澄ました気持ちで
戦う

誰も助けてくれないのに
この力は研がれる
この刃の輝きが目に見えなくても
きっと突き刺せる

どうせだったら殺しに来い
血を流したってこの声は鈍らないから
細い腕でだってぶん殴れるから
涸れた声でだって歌えるから





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